推薦日記

色々なものを推薦するブログ

【ネタばれ注意】宝塚歌劇団雪組公演 fff~歓喜に歌え!~ 

今回は、推薦というより個人的な記録としての記事です。ネタバレを含むのでご注意ください。この公演は一度延期されましたが、令和3年1月現在、宝塚大劇場で公演中です。迷いながらも観た理由は、実力派トップコンビの退団公演だからです。

さて「fff(フォルティッシッシモ)」の感想に入ります。
最初の見どころは開演前の幕!五線紙に音符が躍るように現れては消え、音楽の美しさが目から聞こえるようなビジュアルです。このミュージカルはベートーヴェンの精神世界を描いたものなのですが、それを暗示しています。

見どころその2、幕開きは退団者の色でもある白色の天界。天使が高らかにファンファーレを演奏し、明るいトーンの開演アナと続きます。なぜ天界?と思いましたが、ミュージカル全体が神の目線で主人公を見守る構造になっていて、最後のシーンではアンコールのカタルシスと共に天界の設定が効いてきます。このアンコール演出もおしゃれ。

見どころその3、本物のオケピットから楽団員たちとそれを指揮するベートーヴェンが登場するシーン。この手があったか!と。コロナ禍で録音演奏だからこそですね。望海風斗さん演じるベートーヴェンの指揮も説得力がありました。

見どころその4は、耳が聞こえなくなったと同時に現れる謎の女とベートーヴェンとの会話です。軽妙で萌え満載で、まるでトップコンビの同人誌のよう。観念的な作品なので、それを理解する手助けにもなっています。聞こえないことをどう表現するか注目していたのですが、その工夫もここにありました。真彩さんが正体を明かす歌唱は鳥肌ものです。

見どころその5は、物語と音楽とのマリアージュベートーヴェンの曲が芝居やオリジナル曲と一体になっていて、クラシックに詳しくないので想像ですが音楽上の伏線もあるのでは(私が演出家ならそうするかなと)。歓喜の歌はもちろん、雪原の中でナポレオンの隊列からメロディが生まれる瞬間はなんだかわからない涙が出ました。

見どころその6、貧困や命のリアリティ。貧乏人の見本みたいなモラハラ親父が息子を虐待したり、ロシアではさりげなく死体からコートをはいで暖を取ったりします。宝塚歌劇では貧困や戦争が記号的に描かれることが多いので、こういう小さなことにもはっとします。

まだまだ見どころは尽きない本作。愛と夢を描く宝塚歌劇にしては「生きているのは苦しむため」と辛すぎなんですが、逆に人間の本当の夢を描いてる作品だなと思います。
理想主義で、権力に迎合せず不器用で孤独な人が、死にたくなるほど辛い人生を受け入れて、世の中を救うために才能を発揮する。昔ながらの宝塚歌劇の主役=かっこいい理想の王子様とはほど遠いのですが、これも今の理想なのかもしれません。